児童小説のブンゲイ

スノードームをのぞいてみれば
【おみやげにもらったカバの置物が突然しゃべりだした! カバのフィリッポに連れられてアオイはスノードームの世界に旅に出る。】  小学五年生のアオイのお父さんは、仕事柄、海外出張が多い。独身時代にさまざまな国に旅行をして訪れた町のスノードームを集めているお母さんに、お父さんはパリ出張のおみやげにスノードームを買ってくる。ひどい小児ぜん息のせいで、楽しみにしていた高原学校にも参加できないアオイは両親をうらやましく思うのと同時に、思い通りにならない自分の体にいらだっている。  お父さんがアオイに買って来てくれたおみやげは、古代エジプトの副葬品のカバをモチーフにした置物だった。カバの置物は、フィリッポと名乗り、動き出す。フィリッポの力で、アオイはスノードームの中に入って、その中を旅する。ぜん息の発作が起こるたびに、フィリッポはアオイをスノードームの中に連れて行ってくれる。旅の途中、スノードームの中にいるアオイは外側からのぞきこむ女の子の存在に気がつく。  それは、中国のスノードームの製造工場で働くヤン・ルーだった。日常生活にあふれる大量生産されている中国製の商品のむこうがわに、それを製造する労働者がいることに気がついてアオイはハッとする。二〇〇〇年代初頭の出かせぎ労働者には、海外旅行をするなんて夢のまた夢だが、ヤン・ルーは世界中に出荷されるスノーボールを作りながら、その町を旅することを夢見る。どこにも行けない不自由な身の上をかこつアオイとヤン・ルーはしだいに心を通わせていく。一年後、半年後、とヤン・ルーの時間は、スノードームを購入した時間に合わせて一足飛びに過ぎる。  ぜん息の発作が減るにしたがい、アオイがスノードームを旅行する機会も減る。六年生になったアオイは、無事に修学旅行に行く。一方、中国は急激に経済成長をとげ、多くの中国人が海外旅行を楽しめるようになった。修学旅行先の宮島のおみやげ物屋で、アオイとヤン・ルーは再会を果たす。二人の目の前には、厳島神社の鳥居が入った、スノードームがあった。