純文学の作品

6月になれば彼女は
「これはね、わたしは生きてるんだって実感するためにやってることよ。痛みを感じることも、流れ出る血をじっと見つめることもね。逆に言えば、わたしが死なずに生きていくためのおまじない……」 陽ちゃんは、僕の従姉だ。歳はたしか四歳上。彼女は子供の頃から秀才で、地元の進学校から北海道の国立大学にすんなりと入ったけれど、大学四年生の夏休みに帰省してきて、そのまま大学に戻らず結局退学した。 彼女はそれからあしかけ三年間、家に引きこもっているから、今25歳になっているはずだ。 陽ちゃんは、広い場所や人混みが苦手だ。そんな場所で発作を起こした彼女を僕はこれまで何度か目にしている。 最近はその症状もかなり良くなっていて、こうして自分で車を運転して、たいていの場所には出かけられるようになっている。 ただ、人ごみや広い場所に一人で出かけるのは今でも苦痛らしく、そんなとき彼女はお供を必要とする。 お供役の声のかかるのが主に僕だ――。 短歌もテーマの一つとなっており、素敵な短歌をたくさん掲載しています。短歌好きの方、短歌だけでも拾い読みしてって下さい。 ◆本作に掲載の短歌は、『ヴェーチェル 夕べ』アンナ・アフマートワ(工藤正廣 短歌訳)から掲載しています。  
into the rain
0 intro    国道一九号線を北進。路上駐車の車両を避けて歩道に単車を寄せた。雨は煙草を消さない程度で、空は雲が続いているけれど明るい。空の色のフォルクスワーゲンがクラクションを鳴らして通り過ぎた。  後続のタクシーに煙草を挙げたったけれど運転手は俺を一瞥して停車せず、そのまま煙草を投げつけたりしながら歩く。七台目のタクシーが停車して後ろのドアが開いた。  若宮大通を右折して丸田町から四一号へ。だいたい俺も仕事はドライバーだで、だいたい一介の二種免許取得者に金なんて払いたねーけど、だいたい昨日の夜から俺の車はどこに停まっとるんだか。  東新町交差点を右折。停車させて数枚の万札のうち一枚を抜き取って運ちゃんに渡し、俺も職業運転手なんだよねと話しかけ、お兄さんみたいな人は運転向いてないですよと返されるのを期待しながら釣りを受け取る。  14:50。予約の確認を入れる時間。13:00の大須から、一瞬で時間が過ぎ去ったような感覚に陥る。店に電話をしながら階段を上る。二階のドアから入る。受付の中の受話器を持ったボーイとアイコンタクトして終話する。  俺は今から仕事だもんで。まー今は運転しとらんけど。これも社長に頼まれた仕事の内だで。続きは仕事が終わってから。    雨が、止んだら。