ひとつの身体でありながら 女と男 陰と陽――
2009年9月。東京の大学でアメリカ文学を講ずる朝永惇也のもとに、美貌の大学院生・如月燎が授業補助としてやって来る。朝永は二年前に妻を喪って以来、自責の念に囚われ、時が止まったような精神生活を送っていた。バイセクシュアルの教員として、性的マイノリティの学生のための相談員を務める朝永に、如月は自分も同じ性的指向を持っていると明かす。有能で明るい如月の働きかけは朝永の心を動かし、彼はいつしか如月に惹かれていく。
秋の深まる頃、如月は同性の恋人に東京を去る意志を告げられ、動揺する。朝永は相談員として如月を支えるが、朝永の自宅を訪れた如月が、若き日の朝永をモデルとした芸術写真を発見した時、朝永はそれ以上の如月の接近を拒む。その写真は、朝永がかつてアメリカ人の日本文学者・アーネストの愛人として、女性と男性、二つの性を生きた時代があったことの証拠だった。
同僚のスター教員、柳井から如月の汚れた過去を聞かされ、悩む朝永。如月の美貌と誘惑的なまなざしは、男を滅ぼす「運命の女(ファム・ファタール)」のそれなのか――。如月に執着する柳井の悪意を知った時、朝永は如月への疑いも、自らの感情をも押し隠し、彼を救う決意をする。
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別ペンネームで約12万字の初稿版を他サイトに掲載しています。こちらは大幅に加筆修正を行った改稿版となります。約15万8千字。
改稿版は「ステキブンゲイ」のみの掲載です。
カバー写真「眠れるヘルマプロディートス」出典: https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Sleeping_Hermaphroditus,_Louvre_Museum,_Paris_14_July_2013.jpg