幼いキクちゃんが寝ていると、古時計の扉が開いて羊が何匹も出てきた。何匹も、何匹も、出てきた。朝になって、両親にその話をすると、夢だと言って何も信じてくれない。キクちゃんは、大人は分かっていないと機嫌を損ねる。
大人になったキクちゃんは、自分が代を引き継いだ宝石店に一人佇んでいる。コロナで客足が途絶え、長年営業してきた店が、今年限りで閉めることになるかもしれないという危機に面している。
店に持って来ている古時計の針の音だけが、幼い時と変わらずにカチ、カチと音を刻んでいる。
幼い頃の不思議な体験を思い出すキクちゃん。その古時計の中に、将来の秘密が隠されているかもしれないと、扉を開けようとする。開かない。途方にくれる。悲しみと絶望で涙がこぼれる。
頬から零れ落ちた涙が、店に置いてあるどんな宝石よりも輝いてきれいであった。
キクちゃんは、きれいな涙の輝きの中に「希望」という光を見たのだった。