私たちの父さんは、とてもきれいな容姿の持ち主です。
現在二十五歳で、オシャレなカフェにアルバイトとして勤務していますが、父さん目当てで来店なさる女性客もいらっしゃるんですよ。
でも父さんは、自分のルックスの良さを全く鼻にかけません。それどころか、とある事情で父さんは自分に自信が持てずにいます。私たちは見ていてとても歯がゆいです。私たちにできることが何もないからです。
友人でモデルのトオルさんや、バイト先の女子・新城さんなどは父さんに非常に親しく接してくれますが、そんな彼らの言葉も父さんの奥深くには届かず、密かに病院にも足を運んだりします。しかし父さんの悩みは今のところ解決していません。
そんなある日、街角で父さんはモデルのスカウトを受けます。赤石きょうこと名乗ったその中年女性は、これまで父さんが遭っていたしつこい勧誘とは違い、ただ、「きみの顔には需要がある」とだけ言って去って行きました。
そして、心療内科の非常階段でタバコを吸う謎めいたアルビノのような女性・ナギさんと出会います。
私たちはただ、父さんに幸せになって欲しいだけなんです。
だっていつか、私たちの誰かが、本当に父さんの娘か息子になるかもしれないのですから。